million topics
公演直前インタビュー!
川本嘉子 無伴奏リサイタルを語る

公演名・日時
「第4回 無伴奏の世界 川本嘉子(ヴィオラ)」
2025年9月18日(木)19時開演 浜離宮朝日ホール(東京・築地)
演奏曲目
細川俊夫/ヴィオラ独奏のための《私を泣かせてください》(ヘンデル)
J.S.バッハ/無伴奏組曲 第1番 ト長調 BWV1007
西村 朗/ヴィオラ独奏のための《鳥の歌》による幻想曲
J.S.バッハ/無伴奏組曲 第2番 ニ短調 BWV1008
権代敦彦/《テロス》ヴィオラのための
J.S.バッハ/無伴奏組曲 第6番 ニ長調 BWV1012
無伴奏リサイタルは、舞台の上でひとりで真の自分と戦わなければならない。
ピアノや他の楽器と共演する時は色々な思考が錯綜してひとつの演奏が生まれるじゃないですか。だけど独りだと、自分と戦わなきゃいけない。今回、私は譜面を見る予定ですが、覚えていないからじゃなくて、譜面がないと自分に魔がさす瞬間があるんですよ。それが悪魔か天使か、瞬間に判断しなければならない。じゃあ、もっと集中すればいいんじゃないか、と思うかもしれないけど、ちょっとそれともまた違う。やっぱり人間だから、真摯に向かい合おうとすると、その瞬間にいろんなことが起こる。それとの闘いかな? 異様なる集中力を自分の中で保って、自分の本能から出てくる音楽をどのくらい構築していけるかの闘いになる予定。練習のときはバッハさんにいてもらった方が良いけれど、本番のときは守って貰えたら嬉しいです。
これまで、私はわりと難解な曲をやらせていただいてきて、家族などには難しい曲しか弾かないと思われている(笑)。今回はせっかくのチャンスなので、ひとりでも多くの人にヴィオラの魅力や曲そのものを聴いていただきたい。今回は「限界に挑戦」みたいなものを避けて楽しくやりたいなぁ、と思ってる。そういう意味で、誰でも知ってる曲のヴァリエーションや編曲のものを選曲し、ヴィオラの良さも逃さずメロディを詰め込んで……という風に考えたプログラムなんです。
バッハは東京・春・音楽祭などで全曲を取り上げましたが、今回はト長調の1番と、数少ない短調の2番を入れ、6番はヴィオラで弾くために移調して演奏します。哲学でいうところのニ長調の神の世界ではなく庶民感があるト長調で演奏するので今回のテーマも合っていると感じます。
細川さんと西村さんの曲は、両方とも今井信子さんの委嘱で、アンコールには少々巨大な小品に仕上がっています。
細川さんの作品は、ヘンデルのオリジナル寄りの表現をしたいので細川さんと私の三者の個性を生かす表現を目指しています。
西村さんの作品は、神が降りてきた瞬間にスゴい集中力で書いた感覚を覚えます。そのエネルギーが溢れてくるので全然飽きない作品です。
権代さんは2つ先輩で、音楽高校の頃からこの人はちょっと狂気の天才なんだろうなぁ、って思ってました。今は浄化されているというか、神に近い存在に思えます。
ヴィオラはあんまり枠からはみ出たことは出来ない楽器だと世間から思われていると思いますが、私が学生の頃に「ああ、ヴィオラでもソリストとして活動が出来る人が出てきた」と思わせてくれたバシュメットや今井さんが委嘱した作品が、未だにこうやって私たちを助けてくれています。
それらの歴史がファミリーツリーのように共鳴するプログラムになるよう、私自身も期待をしています。
(2025年8月31日 松本にて)